









このお住まいは、土地探しからご相談いただき、2社によるコンペで始まりました。候補地は2か所あり、敷地や法規の調査を行い比較検討した結果、最終的には職場に近い土地を選ばれました。ただし、その近くには川があり、数十年に一度の氾濫リスクがありました。また、ご夫妻のご実家は県外にあり、定年後の約20年後にはそちらに移り住む可能性もあるとのことでした。そこで、1階をコンクリートにして2階を生活の中心とする案も検討しましたが、将来的な転居の可能性やコストを考え、日々の暮らしやすさを優先することにしました。
コンペで選んでいただいてから完成までには、足掛け5年を要しました。基本設計がまとまった頃、ご主人の海外転勤が決まり、2年間ほど計画を中断。その後、帰国の1年前からオンラインで打ち合わせを再開しました。当時はまだ珍しい方法でしたが、コロナ禍以前からオンライン対応を経験することになりました。
その間に私たちの考えも少しずつ変化し、建設費の高騰も重なったため、改めて計画を練り直しました。結果として、シンプルで美しく、日常的に使いやすい家を目指すことになりました。
外観はシンプルな箱型ですが、敷地の限られた中にインナーガーデンを設けています。網戸で仕切られたこの空間は、虫や人の侵入を防ぐだけでなく、光や影の効果で外から室内が見えにくくなる工夫もあります。
外壁には「べらんだくん」という硬質木片セメント板を採用しました。ベランダの下地材として使われることが多い素材ですが、水に強く、表情にムラがあるため、時間の経過とともに変化を楽しむことができます。
室内ではラワン合板、ラーチ合板、シナ合板、ポリ合板などを使い分け、家の奥に進むにつれて仕上げの肌理が細かくなるように工夫しました。小さな空間ですが、粗さから繊細さへと移り変わるグラデーションを感じられます。さらに一部は構造材をあえて見せることで、未完成のような表情を残しました。これにより、新築らしい雰囲気が長く保たれるだけでなく、住む人が自由に手を加えやすい家になっています。実際に数年後には、お施主様が自転車ラックを製作されるなど、住まいに手を加えながら楽しんでいただいています。
当初は「20年ほどしか住まないかもしれない」とおっしゃっていましたが、実際には外壁塗装など丁寧なメンテナンスを続けていただき、訪れるたびに大切に暮らされていることを感じます。
所在地 | 愛知県刈谷市 |
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構造規模 | 木造、2階建て |
延床面積 | 119㎡ |
構造設計 | ハシゴタカ建築設計事務所 髙見澤孝志 |
キッチン | 寿々源 |
造園 | 櫻井造景舎 |
施工 | 誠和建設 |
竣工 | 2016年 |
写真 | 上田宏 |
受賞 | 第31回すまいる愛知住宅賞 名古屋市長賞 |
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掲載 | 新建築住宅特集2020年5月号 architecturephoto 北欧テイストの部屋づくり no.20 LiVES vol.93 建築ジャーナル2018年9月号 |
一ツ木の住宅 お施主さまインタビュー

ご依頼いただくきっかけや決め手となった点について教えてください。
建築家の方に設計してもらった、自分たちだけの家が欲しかったからです。
作品づくりと施主満足度のバランスを考えてもらえそうな人にお願いしようと考えていました。
諸江さんに依頼したきっかけは、私たち夫婦より5歳くらい年上で、大手事務所での経験と作品がすでにいくつかあったこと、名古屋を拠点にされていることでした。
感覚としては、「頼れるお兄さん」に依頼したいなというイメージがありました。
低予算の物件で申し訳なかったですが、代表作の一つにしてもらえる人がいいなという思いもありました。
まだ依頼を検討中の時点で敷地に何度か足を運んでくださったり、時間をかけて提案書を作っていただけた「誠実さ」が、夫婦で「この方だ!」と一致しました。
文字にしづらいですが、「ちゃんとしてる」感じが、お願いしたいと思えました。
芸術家肌の建築家さんだと、エンジニアの夫と合わないなと思っていたので、細かいところも気にしてもらえる諸江さんはぴったりの方でした。
おおざっぱじゃないのが相性のよいところでした。 引き渡しから約9年たった今でも、当初の思いはまったく変わらず、「誠実な方」です。
コストの調整の仕方はどのように感じましたか。予定金額におさまりましたか?
予定金額に収まりました。
家を箱型にして予算を抑えたり、建材で調整してもらったりして、こだわりのある所と抑える所を上手に組み合わせてくださったようです。 施工会社を決める際も、相見積もりを取ってもらえるので、安心してお任せできました。
実際に住んでみて、住み心地や気に入っている場所、設計段階では気づかなかった良い点などあれば教えてください。
気に入っているところは、まず、ファサードの網戸です。
リビングの開口が大きいので、開かない網戸は「視線のさえぎり」「出入りできない」という頼もしい役目をしてくれています。
視線のさえぎりは、カーテンを開けても外から中がほぼ見えないのがうれしいです。
出入りできないのは、不便に感じるかもしれませんが、外からの侵入の心配がないこと(虫も人も)は、びびりの私には絶大な安心感があります。外気を入れるために扉を開けっぱなしにできます。
また、生活動線が完璧に合理的なところも気に入っています。
洗面・風呂・洗濯機・衣類収納・物干し・洗濯たたみスペース・キッチンが全て10歩圏内にあります。
生活動線が短いので、家事が楽に進みます。
引き渡し後のアフターフォローはご満足いただけていますか?
大変満足です。
不安に感じたり、不満を持つことはまったくありませんでした。
引き渡し後数年たつと、外観にも室内にもちょっとした困りごとや相談したいことがでてきました。
住んでみないとわからないこと、例えば「冬の寝室が寒い」「コウモリが休憩しに来ている」「造作の本棚に段を追加したい」など。
「こんなことで困ってます」と伝えると、すぐに具体的で明快なご回答をもらえるので助かりました。 諸江さんはもちろん、施工会社のご対応にも感謝です。
当事務所の印象や特色などあれば教えてください。
- 誠実
- メールの返信
作品を大切に思ってくれているなと感じます。