家具工房とピアノ教室を併設した住宅。
1階には家具工房があり、作業場ともなる大きな庭に開いている。庭は美濃路街道に面しているが、周辺住宅のように塀で閉ざすのではなく開いた。代わりに道路からは少し距離を取ることで、工房の様子を街の人に感じてもらいつつも、見られていて作業しにくくならないようにした。
工房南側には夫の母のピアノ教室がある。大きなガラス面を通して道路から少し斜めにピアノが見える。また、夫は幼少期からピアノの音を聞いて育ち、新しい家でもそのようにしてほしいと要望があった。
2階が夫婦の住まいである。生活の場からも工房の様子が見え、ピアノの音が聞こえるように2階の床の中央部分を下げ、段差を設けた。段差の隙間から視線や音が伝わるだけではなく、2階南側の窓の光が工房北側奥まで届く。この住宅が建つ一宮市にはノコギリ屋根の工場が多いが、2階の床の段差は室内に取り込まれたノコギリ屋根とも言える。
天井高さは工房での資材搬入や加工といった材のスケールに合わせている。大きな両開き戸の搬入口は天井が高く、組み立てや塗装などをするスペースは天井が低い。またピアノの音が反響するように天井を少しだけ斜めにしている。
竣工して1年ほどして訪れたとき、施主が「この家を建ててから、地元を耕すような気持ちになった。」と話していた。夫はこの地に生まれ育ったが、これまで地元には特段の愛着はなかった。少しだけ開かれた家をつくったことで多くの人から声を掛けられるようになった。そして少しでも地元に貢献できるようにと、趣味のチェロを活かし地元出身の有名作詞家による校歌を弾き、youtubeにアップするようになった。
職や住が渾然一体となった建築が、街に開くことで街が変わり、人が変わる。
所在地:愛知県一宮市
構造規模:木造、2階建て
延床面積:99㎡
構造設計:ハシゴタカ建築設計事務所 髙見澤孝志
造園:植真 太田造園
施工:誠和建設
竣工:2020年
写真:谷川ヒロシ